RACE REPORT

全日本自転車競技選手権大会 ロード・レース ~ Zone ~

日付:
2024年06月23日
開催地:
日本サイクルスポーツセンター(CSC):静岡県伊豆市大野1826
距離:
8.0㎞コース×20周回=160.0㎞
天候:
豪雨~濃霧~小雨~強風
出走:
小林 海

UCI NC
2024年6月23(日)
会場:日本サイクルスポーツセンター(CSC):静岡県伊豆市大野1826
距離:8.0㎞コース×20周回=160.0㎞
出走選手:3名 安原大貴、小林 海(マリノ)、織田 聖

“サバイバルな天候と展開、激戦を制したのは小林 海!!ついに全日本チャンピオン、日本の頂点に立つ!!!”

5月の国内UCIレースを経ていよいよ6月末の頂上決戦。毎年同じカレンダーを辿るがビッグレースTOJを経た後の最高決戦はコンディション調整など容易ではない。
何よりも誰もがこのタイトルを獲るために準備し、最高に仕上げて狙ってくる。その放たれる凄まじい気迫と欲気が塊となってこの日この場に重々しく渦巻いている。
国内選手の人数が少ないマトリックスは、人数を揃えるチームに対しマリノを主格に“個”の総力で闘う。しかし今年は春先からアクシデントに見舞われることが多く、大貴はまだ負傷を抱えたままでの参戦。それでも残るマリノと聖は5月のTOJでの好調ぶりからの決戦入り、少数だが連携力では負けていない。人数を持つチームプレー、そしてオリンピック代表のレジェンド新城幸也のような海外からのトップ選手や単騎で勇む国内選手も混じるからこそ、難しくもあるがチャンスもある。

昨年と同様コースでの同距離160㎞、しかし天候は昨年とは大違いの朝から大荒れで豪雨と濃霧と強風が入り交じっている。
     

「これこそ選手権日和やろ」 豪雨の中、朝一番のマスターズで4連覇を決めてきた元プロの三浦恭資レジェンドは言う。(今回遠征を共にしていた)

悪天候レースはアクシデント不安はあるが、個の差が明確に表れ力のある者の勝負が多い。チームは好い要素と捉えてスタートを見送る。

スタート時には雨が小降りになり、代わってかなりの強風がホームストレートを追い上げ方向で吹いている。スタートアタックはスタートセレモニーを前列で受けていたトラックでオリンピック代表の橋本英也(チームブリヂストンサイクリング)、このペースが入りとなりラップ14分を切るハイペースでの1周回完了、全108名から既に脱落者も出ながら周回を重ねていく。

4周目辺りから人数を持つシマノレーシングやJCL TEAM UKYOが前方を固め出す中、石上優大(愛三工業レーシングチーム)のアタックをきっかけに活性、集団のペースが上がっていく。徐々に追いついて行ったメンバーで抜けたのは40名ほど、ここにマリノも聖も入り良い絞り込みでの5周回目、まだまだペースアップが続く中でなんと聖がパンクでストップ、「なんてこった…」チームスタッフは後頭部叩かれたようなショックを受ける。

聖はサポート受けて復帰するが落ち着かないペースが続く中でかなり脚を使ってしまうことになる。バラバラとしながら割れた前方は26名で6周目へ、しかしここにはJCLやシマノがしっかり人数を入れており、レース主導を握っていく。

動き出したのはJCL勢、代わる代わるアタックを仕掛けて人数を削りにかかる。緩まないペースに再び集団は何度も割れては追いつきを繰り返す中、JCL増田成幸が単独で抜けながら7周目へ。シマノ、キナンらが反応しながらキツいレースが続き、マリノも引き上げながら17名が抜けるが、復帰に脚を使ったばかりの聖は置いて行かれセカンドグループ。またも増田がアタックをかけて8周目へ、増田は単独のまま9周目へ入るところで宮崎泰史(KINAN Racing Team)が追いつき2名で先行し続ける。後続はマリノを含む17名、JCLのチームコントロールが始まり、この後タイム差はどんどん広がっていく。

雨はほぼ止んだ状態だが滑りやすい路面のせいで落車、そしてパンクが多く、人数絞りにも影響している。先行2名に続くマリノらの集団は20名、チームまとまって残っているのはJCL勢4名、集団のペースはどんどん抑えられ10周目には1分を超えていく。

~20名のリスト~
小林海(マトリックスパワータグ)
岡篤志、石橋学、山本大喜、小石祐馬(JCL TEAM UKYO)
石原悠希、山田拓海、入部正太朗(シマノレーシング)
岡本隼、草場啓吾、石上優大(愛三工業レーシングチーム)
新城幸也(BAHRAIN VICTORIOUS)
留目夕陽(EF EDUCATION-EASYPOST)
山本元喜(KINAN Racing Team)
金子宗平(群馬グリフィンレーシングチーム)
木村純気(CIEL BLEU KANOYA)
久保田悠介(ヴィクトワール広島)
阿曾圭佑(Sparkle Oita Racing Team)
内田宇海(弱虫ペダルサイクリングチーム)
宇賀隆貴(さいたま佐渡サンブレイブ)

レースは折り返し、集団の中から業を煮やした宇賀隆貴(さいたま佐渡サンブレイブ)が単独で抜け出し追走へ。この影響で集団とのタイム差は更に開くこととなり、先頭から2分を超えていく。そして遅れた聖たちは徐々にパックが形成され、少しずつマリノらの集団に近づいていき、このまま行けば追いつくかもしれない…の、ところで、なんと落車に巻き込まれてしまう。聖は悔しく痛い離脱となり、マトリックパワータグでの残るのはマリノのみとなってしまった。

「あいつ、かなり調子いいで、ヤバいで、行けるんちゃうか」
2日前、久しぶりに個人タイムトライアルに出場したマリノ、後半追い上げきれず5位に終わってしまったが、走り終えたマリノを見ながらチームカーを降りてきた監督がこっそりとスタッフへ呟いた。今走っているマリノを見ながら、監督の呟きを思い出す。互いに声には出していないが、チームは覚悟をもってレースに臨み、単騎となったマリノに不安は感じていなかった。

集団の状況は抑えられたまま変わらない12周目、単騎の新城が緩い集団に喝を入れるような強烈なアタックを仕掛けると集団は少しペースを上げ始める。
一方の先頭では増田は宮崎とは協調せずコントロールに徹しペースを引き上げようとはしない、宮崎の後ろ姿にはジレンマを感じる。すると増田がパンクでストップ、宮崎は渾身単独で先行を続ける。後方の集団ではこの離脱でコントロール戦略が変わり一気に活性し始める。愛三の石上が何度もアタックをかけ、マリノも前方でペースを上げていく。集団は一列棒状からバラけはじめる勢い、そして先行の宇田と増田を吸収し人数は15名ほど。ここで新城が落車、集団はレジェンドを待ちながらもやがて先頭の宮崎も吸収して14周目へ。

「この人数に絞られた時、(勝てる)と確信した。勝てる時は不思議と落車しない。全てがよく見えて思ったように周りが動いていく、“※ゾーンに入った”状態。今マリノはその状態だからコケないし、今のマリノならこの状況どうやっても勝つと思った。」
同様の大舞台で頂点に立つ実績のある監督だからこそ、物理的な根拠もあり感じる感触。残り5周回を確信しながらチームカーのハンドルを握る。

※ゾーンとは、集中力が極限まで高まり、感覚が研ぎ澄まされたように感じる状態のこと


ひとつになった集団はもう落ち着かない、上り区間で金子が強烈なアタックをかけて後続を引き離しにかかると、一気に集団はばらけた。マリノは即反応しついていく、抜けたのは4名。

小林海マリノ(マトリックスパワータグ)
金子宗平(群馬グリフィンレーシングチーム)
小石祐馬、山本大喜(JCL TEAM UKYO)

そして後続はたった5名となり、その差48秒で16周目に入る。

新城幸也(BAHRAIN VICTORIOUS)
石上優大(愛三工業レーシングチーム)
留目夕陽(EF EDUCATION-EASYPOST)
岡篤志(JCL TEAM UKYO)
石原悠希(シマノレーシング)

先頭はJCLが2名入り、かなり優勢。それぞれ昨年のTTとロードのチャンピオンである。しかし、マリノのいつも以上の落ち着きにチームは何か確信するものを感じていた。

追走5名も強烈なメンバーだが、レジェンド新城は落車の負傷を抱え、果敢に動き脚を使っていた石上、他のメンバーも疲れが出たかペースが上がっておらず、むしろ負傷した新城が引き続けている状況。先頭4名はそれぞれ冷静に協調しつつも様子を見合いながら先行し続け大きな動きは見せない。しかし心理戦は既に激化していたかと思われる。

そしてマリノはアタックを仕掛けながら19周目へ、残り2周、追走とのタイム差は54秒、勝負は先頭4名確実となってきた。

マリノは一旦戻り先頭4名のまま、互いにジャブのようなアタックで揺らしかけながらもかなり牽制し合っている。

そしてついにラストラップ!自ら仕掛け打ち続けるのは金子、そして山本を擁護するかのように仕掛ける小石、やはり脚を溜めているのは山本でスプリント力がある山本は最終スプリントでの勝負で狙っている様子。しかし、チームは確信していたことがある。“スプリントしない”と言われるマリノは、5月のUCIシリーズでスプリント開眼、今日は十分に勝負できると。(まるで秘密兵器のように現地ではなぜか誰も口に出さなかったが)

残り5㎞辺りのアップダウンで小石が後尾に落ちると、ここでマリノはペースを上げ小石を墜とす。金子も食らいつく表情は厳しそう、やはり山本は溜めている様子。しかしそれ以上にマリノの落ち着きが上回っており、回す脚も軽やかにさえ見える。この見せ方も心理戦なのだろうが、マリノがその強さをじわじわと見せている様子。

金子、マリノ、山本の順で3名が見合いながら残り1㎞からホームストレートへの上りに入った。この牽制の間にドロップした小石が追いついて来た、そしてそのままの勢いからアタック先行、3名一斉に反応するが金子がここで全力モードで駆け出し先頭へ、

残り150m、マリノの腰が更に上がりスプリントモードへ、

そしてあわやゴールに届くかと思われる金子を鋭い速さで差した!!

やった!マリノが片手を揚げる、獲った!!


 「勝ったーーーー!!」「マリノーーーー!!!」
会場の轟くような歓喜の声、囲む人々、皆で喜び合う全てのシーンが、このタイトルの大きさを実感させる。

そして、完走108/21名という、アクシデントの多いサバイバルなレースを、実に5時間近くガチり続けた。

これぞ超最長強の、まさに “日本一のガチ”

「とにかく金子が強くて、レースもずっと速くて、もう千切れると思ってた。マジでキツかった。」と話すマリノ。

今回、チームには選手権だと言う特別感は特に無く、むしろいつもの遠征よりどことなく緩い雰囲気で過ごしていた。いつものように寿司も食い、そしていつものように忘れ物や紛失もあり。けれど、後から思えばだが、スタートしてアイウェアの奥から覗かせる眼差しはやはり違っていたように感じ、チーム皆がどこかマリノのZoneに導かれ、暗黙の覚悟を持ってレース対応をしていたように思う。

小林 海(マリノ) 2024年の全日本チャンピオン 
神々しく眩しい表彰台のてっぺんにマリノが立ち、眩い白いジャージに袖を通し、金メダルがかけられる。


そして、来年にはチーム創立20年目となるマトリックパワータグから、初の全日本チャンピオンが誕生した。

チームピットまでの移動中も多くの人々に声をかけられ写真を求められ、この会場にこんなにも多くの人がいたのかと思うほど。ゴールから時間が経過するほどに全日本チャンピオンとはやはり凄いことだと実感させられる。

そして、タイトル獲得実績を持つ監督より本日の〆

「中国では偉業を成し遂げるような尊敬する人へ敬意を表して「先生(老師ラオシー)」と言います。
今日からマリノのことを「先生(せんせい)」と呼びなさい。」

チームから「先生」も誕生しました。

最後に
チーム創立から19年目にして、ようやく念願の偉大なタイトルを獲ることができました。節目となる20年目を前に感慨深いものがあります。苦しい時も多々ありましたが、皆さまに支えていただき乗り越えてここまで来ることができました。
ようやくこれまでのご恩返しができたと、今はただただ嬉しく、そして改めて感謝の気持ちでいっぱいです。
本当にありがとうございました。これからもどうぞよろしくお願いいたします。

【Result結果】
1位 小林 海(マトリックスパワータグ) 4時間47分25秒
2位 金子宗平(群馬グリフィンレーシングチーム) +00:00
3位 山本大喜(JCL TEAM UKYO)
4位 小石祐馬(JCL TEAM UKYO) +00:10
5位 石上優大(愛三工業レーシングチーム) +01:04
6位 留目夕陽(EF EDUCATION – EASYPOST) +01:28
7位 新城幸也(BAHRAIN VICTORIOUS) +03:29
8位 岡 篤志(JCL TEAM UKYO) +07:03
9位 山本元喜(KINAN Racing Team) +09:36
10位 増田成幸(JCL TEAM UKYO) 

DNF 織田 聖(マトリックスパワータグ)
DNF 安原大貴(マトリックスパワータグ)

公式リザルト

photo by Satoru Kato、Itaru Mitsui