RACE REPORT

全日本自転車競技選手権大会ロードレース

日付:
2021年10月22日
開催地:
広島県中央森林公園サイクリングロード(12.3km周回コース) 広島県三原市本郷町上北方1315
距離:
184.5㎞(12.3㎞×15周回)
天候:
曇り時々晴れ 17℃
出走:
小林 海, 小森 亮平, 安原 大貴, 狩野 智也, 吉田 隼人

男子エリート

“渾然一体の頂上決戦、己との戦いで臨んだ最終決戦は強い意志貫いた愛三工業レーシングチームの勝利”

2シーズンを待って、このシーズン終期にようやく迎えることができた選手権。不安定な情勢影響でカレンダーのずれや重複などで足並み揃わず、この日へ向けての調整も難しい特別な選手権となった。
今回、監督からのチームオーダーは無し。これまで幾度となくこの大舞台をこなしてきたベテラン選手たちは個々の思いと意思を持って調整してきている。彼らの思いを尊重し、それぞれが己のため思いっきり戦ってくることを監督オーダーとした。
選手たちはそれぞれの強い意志を持って、そして良き仲間も良きライバルとしてスタートラインに立つ。

過去何度も頂上決戦の場となっていた広島中央森林公園コースだが遡れば2010年以来、約10年ぶり。Jプロツアーではかなり馴染みあるコース、そしてここ数年200㎞超え設定が多かったが今回は184.5㎞と距離にも特別感はない。観戦向けの設えは無く質素な会場内を行き交う人々は関係者か視察の面々、今回無観客ではあるがこの感じはいつもの選手権会場、そして選手たちから漂う独特の雰囲気はやはり全日本選手権ならではと言える。

当日はどんよりと曇り、陽が当たらない時間が多く気温も上がらない。有力視される選手、海外活動中心のチーム、有力視されながらも参戦できない選手、様々な話題や予想がされる中、孤軍も多く含んだ108名が一斉にスタートした。

15周回184.5㎞の長丁場レースはさほどペースは上がらずも散発的なアタックはかかり続け18分台で進行、集団は一列棒状で周回していく。4周目、シマノレーシングの風間翔眞がアタックし1名で抜ける。人数揃えたトップチーム間の牽制意思も働いたか、この序盤の単独エスケープをスルーはしなかった。

直ぐに集団前方を固め始めたのは愛三工業レーシングチーム、隊列組んでのコントロールが始まった。この動きには全体が乗じ集団のペースは一気にスローダウン、風間との差は1分ほどに開いていく。

集団は愛三工業レーシングチームの後ろに風間を行かせているシマノレーシング、そして宇都宮ブリッツェンやキナンサイクリングチームなどUCI登録チームの隊列が揃い始める。マトリックスパワータグはチームとしての動きは見せず集団内に点在、流れに身を任せている。

5周目になると更に緩んだ集団はラップ20分台にまでペースを落とし、風間との差は2分近くになってくる。ペースは更に落ちていきタイム差は3分以内でコントロール。この選手権を忘れるほどの緩やかな、見る側の気が逸れるほどの弛緩的な状況は終盤まで続き、集団内でも談笑する様子が見られるほど。

ラップタイムはかなり落ちレース進行も予定より遅くなっていく。これまでにはあまり見られなかったやはり特別なパターンの選手権となっていくが、これも作戦の一部だったのかもしれない。

レースにようやく動きが出始めたのは10周目、単独逃げ続けていた風間のペースが落ちていきコントロールされた集団との差が縮まり始め10周目の残り7㎞地点辺りで遂に吸収、展望所山頂への上り区間でKINAN Cycling Teamがペースアップをかけて集団を揺らし始める。ラップタイムは一気に2分ほど縮まり17分台、80名を超える大集団は棒状に伸び集団は分裂していく。

この周回で集団は60名ほどに減り11周目、今度は冨尾大地(CIEL BLEU KANOYA)が逃げる。今季Jプロツアーで幾度も強い逃げを見せていた冨尾の動きは容赦できないが、残り周回から集団は冷静にこの動きを判断したのか再びペースは落ち着く。単独の冨尾との差を30秒ほど、そして分裂してした集団は少しずつ戻り70名近くの大集団に戻っていく。

単独逃げる冨尾が30秒先行で12周目へ、残り3周回となりいよいよ終盤、集団前方の色は入れ替わりが激しくなるがKINAN Cycling Teamが積極的にペースを上げる。そして冨尾を吸収しての上り区間、有力視されている中根英人(EF Education-NIPPO)が山頂へ向けて強烈なアタック。この動きで集団は分裂、切れ切れとなっていく中でマトリックスは小森、マリノ、大貴が前方でクリアし13周目へ入っていく。

このまま絞り込まれた前方で先行するかと思われたが猛者が揃う選手権はそうはいかず、40名ほどの集団。しかし、この緩急激しい動きの連続で確実に集団の人数は減っており、そして、徐々に互いの脚も削り合っていく。

13周目、もう集団は落ち着かない。今度は石橋 学(CIEL BLEU KANOYA)が果敢にアタックをかけている。その動きに反応しながら徐々に抜けたのは20名ほど。マトリックスは小森、マリノが入っている。

石橋 学(CIEL BLEU KANOYA)
中根英登(EF Education-NIPPO)
入部正太朗(弱虫ペダルサイクリングチーム)
小森亮平、小林 海(マトリックスパワータグ)
岡本 隼、伊藤雅和、草場啓吾(愛三工業レーシングチーム)
畑中勇介、小石祐馬(Team UKYO SAGAMIHARA)
岡 篤志(NIPPO-Provence-PTS Conti)
山本元喜、山本大喜(KINAN Cycling Team)
増田成幸、阿部嵩之(宇都宮ブリッツェン)
徳田 優(TEAM BRIDGESTONE Cycling)
谷 順成(谷 順成)
寺崎武郎(バルバレーシングクラブ)
木村圭吾(シマノレーシング)
金子宗平

話題になったのは無所属としてリストされていた金子、以外はこれまでの選手権にも名を連ねてきた想定されているリストだ。そしてここからディフェンディングチャンピオンの入部正太朗がアタック、単独逃げ始める。

シーズンを通して逃げに逃げた入部の逃げの強さを十分に知っている後続面々は一斉に追い始め、並んだリストは崩れていく。

そして勝負所はやはり三段坂から展望台山頂への上り区間、バラけていく後続の中で小森が前方で粘るが、なんとマリノが遅れてしまう。後続は18名、入部は20秒差でラストラップへ。猛追する後続もそのタイム差を縮めながらラストラップへ、小森も後続前方で追っている。

ラストラップ、後続から山本、話題の金子、寺崎の3名が飛び出すと更にブリッジを試みる数名が続き後続崩壊、小森も粘るが追いきれない。そして遂に入部を捕え残ったパックは10名。

入部正太朗(弱虫ペダルサイクリングチーム)
中根英登(EF Education-NIPPO)
伊藤雅和、草場啓吾(愛三工業レーシングチーム)
山本元喜、山本大喜(KINAN Cycling Team)
岡 篤志(NIPPO-Provence-PTS Conti)
小石祐馬(Team UKYO SAGAMIHARA)
増田成幸(宇都宮ブリッツェン)
金子宗平

残る後続は分散し、もう追いつくことは難しい。マトリックスは残念ながら勝負への切符をここで失うことになる。2名残している愛三工業レーシングチーム、KINAN Cycling Teamが優勢か、中根と岡もチーム系列で連携する可能性もある。その中で話題の金子が積極的にアタックをかけているが、グループ内でのアタック戦が激化していく。


やはり勝負は展望台への上り、最後の正念場で攻めていた金子と山本元喜がドロップ。牽く入部を先頭に残る8名が下っていくが、なんと金子は戻り9名がホームストレートへ姿を現す。

9名でのスプリント勝負、スプリント強い草場が圧倒的な速さで真っ先に伸びてくる。そのまま余裕のガッツポーズ、、のところへあわや差し切りかと思わせる勢いで突っ込んできたのはTTチャンピオンを決めている増田。勝者はJプロツアーでもここ最近の強さ際立っていた草場啓吾、新たな全日本チャンピオンの誕生だ。そして増田、中根のトップ3。

最後まで粘った小森は13位でUCIポイント獲得、そして大貴21位、マリノ25位と終盤の動きに前方で粘った順にゴール。チームは高順位に届かず悔しいが、それぞれの考えと意思の上での結果。


そして完走率50%以上となった選手権は珍しい。異例の開催時期や次回選手権の権利獲得など様々な環境や組織的な不安定要素も影響したのかもしれない。やはり特別な選手権であったと言える。

混沌とした中で徹底したコントロールを貫き見事勝利への展開へ持ち込んだ愛三工業レーシングチームのチームプレイ、その前兆は前週のJプロツアー最終戦でも見られた、全の力に強い信念を持っての素晴らしい勝利だった。届かぬ結果となったが、マトリックスは戦略としては真逆となる個の力での勝負を選択し貫いた。この強い意思で戦う姿勢を次の勝利に繋げてみせる。自身でしっかりと総括し、次回の日本一を狙っていきたい。

これで2021シーズンの公式ロードレースは終了となりました。支え応援をいただき本当にありがとうございました。
マトリックスパワータグは年中走り続けています。これからはイベントシーズン、競技普及に努めながら2022シーズンへ向けて走り続けます。

引き続きどうぞよろしくお願いたします。

Photo by Satoru Kato, Shizu Furusaka,Itaru Mitsui,Airan Fernandez

【結果】
1位 草場啓吾(愛三工業レーシングチーム) 4時間47分16秒
2位 増田成幸(宇都宮ブリッツェン) +00’00”
3位 中根英登(EF Education-NIPPO) +00’01”
4位 山本大喜(KINAN Cycling Team) +00’02”
5位 岡 篤志(NIPPO-Provence-PTS Cont)
6位 小石祐馬(Team UKYO SAGAMIHARA) +00’03”
7位 金子宗平
8位 伊藤雅和(愛三工業レーシングチーム)
9位 入部正太朗(弱虫ペダルサイクリングチーム) +00’05”
10位 岡本 隼(愛三工業レーシングチーム) +01’15”
13位 小森亮平(マトリックスパワータグ)
21位 安原大貴(マトリックスパワータグ)
25位 小林 海(マトリックスパワータグ)
58位 吉田隼人(マトリックスパワータグ)
DNF 狩野智也(マトリックスパワータグ)